古の播磨を訪ねて~宍粟市編 その5
敷草(しきくさ)の村
播磨国風土記には、「敷草の村 草を敷いて神の御座としました。だから、敷草と言います。この村に山があります。南方に離れること十里(約5㎞)ほどのところに沢があります。周りが2町(約200m)です。この沢に菅(すげ)が生えています。笠を作るのに最も適した菅です。檜・杉・栗・黄蓮・黒葛などが生えています。鉄(まがね)を産します。狼・熊が棲んでいます。」とあります。
ここに出てくる「しきくさ」がなまって「ちぐさ」となったと言われ、現在の千種町千種が推定地と考えられています。また、「山」は兵庫県第2位の高さの「三室山」が比定地とされています。このほか、笠をつくるのに非常に適した「すげ」が生えているとの記載もあります。元日本地名研究所長の故長谷川健一氏は、播磨学研究所編『播磨国風土記』の中で、「この『すげ』が単に植物の『菅』だけでなく金属をも表しており、これを受けて、この条の末尾には『鉄を産す』との記載がある」と記しておられます。
今回は五月半ばの宍粟の「山笑う」新緑の頃に千種町西河内の天児屋鉄山跡を訪ねました。ここは、上記のように古代より砂鉄を産し、その砂鉄は「カンナ流し」という手法で採取され、「千種鉄」として高い品質を誇りました。中世以降は、備前の刀匠たちに珍重され、数々の名刀を残しています。
昭和59年からの調査により、地下4m近く掘り込まれ、入念に排水、防湿工事が施されていた跡など、炉の地下構造が明らかになりました。先人が築いた「たたら製鉄」の足跡を後世に伝えるべく、平成9年4月「天児屋たたら公園」としてオープンし、平成14年4月9日には兵庫県の史跡地に指定されました。
また、ここ千種高原は「クリンソウ」が有名で、その群生地は、砂鉄を取った後の「真砂土」が溜まるカンナ池辺りを中心に約15ha。そのえも言われぬ群生の美しさは必見です。カンナ池跡は「湿地を好み、暑さに弱く、寒さに強い」クリンソウの生育に最適であったようです。古代から連綿と続いてきた千種鉄の「たたら遺跡」が、大自然の営みと相まり、現在にいたってクリンソウに最良の生育環境となった偶然に、ただただ驚嘆するばかりでした。辺り一面を薄紫色に染めるクリンソウを目の当たりにして、現代の私たちがこの環境を後世に守り伝えていく義務のようなものを感ぜずにはおられませんでした。(宍禾の郡柏野の里)